概要
前立腺肥大症とは、前立腺が肥大して、様々な排尿の症状を引き起こす病気です。
前立腺
前立腺は男性にしかない生殖器の一つで、前立腺液といわれる精液の一部を作り、精子に栄養を与えたり、精子を保護する役割を持っています。
前立腺は直腸と恥骨の間にあり、膀胱の出口で尿道を取り囲んでいます。このため、前立腺が肥大すると尿道が圧迫されて、排尿に関わるいろいろな症状が出現します。
前立腺は、尿道の周囲にある内腺とその周りにある外腺に区分されますが、前立腺肥大は尿道周囲の内腺に発生し、前立腺がんは外腺に発生します。
症状
蓄尿症状
- 頻尿
前立腺肥大症では、多くの場合頻尿がみられます。頻尿については、一日に何回以上という定義はありませんが、昼間(朝起きてから就寝まで)については概ね8回より多い場合、夜間は就寝後1回以上排尿のために起きる場合、それぞれ「昼間頻尿」、「夜間頻尿」と考えられます。
前立腺肥大症で、排尿後に膀胱内に尿が多量に残るようになると、膀胱に貯められる尿量が減って、結果的に頻尿になる場合もあります。
- 尿意切迫感
尿意切迫感は、急に我慢できないような強い尿意が起こる症状を言います。また、尿意切迫感があって、トイレまで間に合わずに尿が漏れてしまうような症状を、「切迫性尿失禁」と言います。 - 過活動膀胱
尿意切迫感があり、頻尿を伴うものを過活動膀胱といいますが、前立腺肥大症の患者さんの50~70%が過活動膀胱を合併します。過活動膀胱では、まだ膀胱に十分尿が貯まっていないのに、膀胱が勝手に収縮してしまうので、すぐに排尿したくなって頻尿になります。
検査
自覚症状の評価
自覚症状の程度(重症度)の評価には、症状質問票を用います。世界共通で用いられている国際前立腺症状スコアは、7つの症状について、その頻度毎に点数がつけられており、前立腺肥大症の症状の程度をスコアで評価することができます。
症状とは別に、付随するQOLスコア質問票で、前立腺肥大症の症状がどれくらい支障となっているかを評価することもできます。
国際前立腺症状スコア(IPSS:International prostate symptom score)
- | まったく なし | 5回に1回の 割合未満 | 2回に1回の 割合未満 | 2回に1回の 割合 | 2回に1回の 割合以上 | ほとんど 常に |
1.最近1ヶ月間、排尿後に尿が まだ残っている感じがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
2.最近1ヶ月間、排尿後2時間以内に もう一度しなくてはならないことがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
3.最近1ヶ月間、排尿途中に 尿が途切れることがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
4.最近1ヶ月間、排尿を 我慢するのがつらいことがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
5.最近1ヶ月間、尿の勢いが 弱いことがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
6.最近1ヶ月間、排尿開始時に いきむ必要がありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
7.最近1ヶ月間、床に就いてから朝起きるまでに 普通何回排尿に起きましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
- 国際前立腺症状スコアの判定
尿路の症状には複数の要素が関係しているため、この点数だけで完全な判定はできませんが、一般的には0~8が軽症、9~20が中等症、20以上が重症の前立腺肥大症と考えられています。
QOLスコア
- | 大変満足 | 満足 | 大体満足 | 満足・不満 の どちらでもない | 不満気味 | 不満 | 大変 不満 |
現在の排尿の状態が、 今後一生続くとしたらどう感じますか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
- 点数が低くても、尿閉(尿が全く出なくなること)を何度も繰り返すときは重症と評価される例外もあります。
合計点の高い低いにかかわらず、症状に気になる点がある方は早めに医療機関にご相談ください。
- 点数が低くても、尿閉(尿が全く出なくなること)を何度も繰り返すときは重症と評価される例外もあります。
直腸内指診
肛門から直腸に指を入れ、前立腺に触れることで、前立腺の形や硬さ、痛みの有無を調べます。前立腺に炎症があると強い痛みがあり、また前立腺癌があると硬い腫瘤を触れることがありますので、前立腺肥大症以外の疾患をチェックするのに重要な検査です。
尿流測定
トイレ型の検査機器に排尿すると、尿の出方がグラフで示され、尿の勢い(1秒間にどれくらいの尿が排出されるか)、排尿量、排尿時間などが自動的に数値化されて表示されます。簡便に排尿障害の有無や程度をスクリーニングすることができます。
血清PSA(前立腺特異抗原)測定
PSAは前立腺から分泌される特異なタンパクで、血液検査により血液中のPSA濃度を測定することができます。
PSAは前立腺癌のスクリーニング検査として有用で、正常値は4ng/mL以下ですが、前立腺癌があると正常値を超えて上昇します。4~10ng/mLの上昇はグレーゾーンと言われ、前立腺癌以外に、前立腺肥大症や前立腺炎でもみられることがあります。
前立腺超音波検査
超音波検査により、前立腺を描出して、前立腺の大きさ(体積)を計測します。超音波検査は、超音波を発信する装置を、下腹部からあてる、あるいは肛門から挿入する、いずれかの方法で行われます。
直腸内指診では正確な前立腺サイズの評価は困難ですが、超音波検査により正確に前立腺サイズを評価することができます。
尿流動態検査(圧尿流検査)
圧尿流検査は、尿道から膀胱にカテーテルを挿入して、膀胱に生理食塩水を注入しながら膀胱の内圧を測定し(膀胱の蓄尿機能を調べます)、膀胱が充満したら排尿して、膀胱の収縮圧と尿流測定を同時に測定する(膀胱の排尿機能を調べます)検査です。
この検査により、蓄尿期においては、尿意が正常であるかどうか、過活動膀胱の有無、膀胱がどれくらいの尿を貯めることができるか、などを知ることができます。
排尿期においては、膀胱の収縮力が正常かどうか、前立腺肥大による通過障害の有無あるいは程度を知ることができます。
血清クレアチニン測定
前立腺が非常に大きく肥大していたり、多量の残尿がある場合に、腎機能障害の有無を調べるために、血液検査で血清クレアチニンという物質の測定を行います。クレアチニン値が上昇していれば、腎機能障害が疑われます。
上部尿路超音波検査
クレアチニンの測定と同様に、前立腺肥大症の合併症として水腎症の有無(腎臓が腫れているかどうか)を調べるために腹部超音波検査により腎臓を描出して検査します。
合併症
前立腺肥大症が進行すると、症状の悪化のみでなく合併症を引き起こすことがあります。
- 肉眼的血尿
前立腺肥大のために、尿道粘膜の充血が起こり、前立腺部の尿道粘膜から出血して、血尿が出やすくなります。 - 尿路感染
排尿障害のために、膀胱内に残尿が残るようになると、尿路感染が起こりやすくなります。 - 尿閉
膀胱内に尿が充満しているにも関わらず、尿が出せない苦しい状態となり、これを尿閉と言います。
前立腺肥大が進行すると起こりやすく、飲酒、風邪薬の服用が尿閉を引き起こす要因になります。また、尿を我慢しすぎることが、尿閉を引き起こすこともあります。- 胃内視鏡検査を行う前に、胃の動きを止めるために注射(ブチルスコポラミン臭化物)を打ちますが、前立腺肥大症があるとこの薬が尿閉を引き起こすことがあります。
- 膀胱結石
膀胱内に常に残尿がある状態が長期間続くと、膀胱内に結石ができることがあります。 - 腎機能障害
膀胱内に多量の残尿が残るようになったり、排尿障害のために膀胱壁が厚くなると、腎臓から膀胱への尿の流れが妨げられ、腎臓が腫れる状態(水腎症)となり、腎不全になることがあります。 溢流性 尿失禁
溢流性尿失禁は、膀胱内に常に多量の残尿が存在するために、膀胱内にそれ以上尿が貯められなくなり、尿道から尿が溢れ出て、いつも尿がちょろちょろと漏れる状態を言います。
治療法
薬物療法
α1受容体遮断薬
α1受容体遮断薬は、前立腺肥大症に伴う排尿困難の薬として使われる内服薬です。
前立腺平滑筋に対する交感神経緊張状態を抑えることにより、前立腺を弛緩させ、その結果として、前立腺の尿道に対する圧迫を軽減します。また、前立腺肥大症に伴う過活動膀胱の改善にも効果があり、排尿困難だけでなく、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感などの蓄尿症状の改善にも有効であることが示されています。
5α還元酵素阻害薬
血液中の男性ホルモン(テストステロン)が、前立腺組織に作用するのを抑える作用があります。血液中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれると、5α還元酵素の作用によりジヒドロテストステロンに変換され、このジヒドロテストステロンが前立腺細胞の増殖に働きます。
5α還元酵素阻害薬は、前立腺細胞の中でテストステロンをジヒドロテストステロンに変換する5α還元酵素の作用を抑えることにより、前立腺細胞の増殖を抑制し、その結果肥大した前立腺が縮小します。この薬を長期間服用することにより肥大した前立腺が縮小して、排尿困難の症状を改善します。
この薬の作用はα1受容体遮断薬と異なり、効果があらわれるのに数ヶ月かかるので、長期間の内服が必要です。前立腺が大きい場合や、α1受容体遮断薬による治療で効果が不十分な場合には、α1受容体遮断薬と5α還元酵素阻害薬が併用されることもあります。
抗アンドロゲン薬
前立腺に対する男性ホルモンの作用を抑える薬ですが、5α還元酵素阻害薬とは作用機序が異なります。
抗アンドロゲン薬は精巣からのテストステロン産生を抑制するとともに、血液中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれるのも抑制します。
この薬も、肥大した前立腺を縮小して、排尿困難の症状を改善します。
PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬
副交感神経終末や血管内皮細胞から産生されるNO(一酸化窒素)は、平滑筋細胞内でcGMPの産生を促進し、平滑筋を弛緩します。
cGMPはPDE(ホスホジエステラーゼ)5の作用により分解されますが、PDE5阻害薬はNOにより産生されるcGMPの分解を抑制することにより、膀胱頸部・尿道および前立腺の平滑筋を弛緩して前立腺肥大症に伴う下部尿路症状を改善します。
手術療法
薬物治療を行っても、症状の十分な改善が得られない場合や、前述したような肉眼的血尿、尿路感染、尿閉を繰り返す場合、あるいは膀胱に結石ができたり、腎機能障害が発生した場合には手術による治療が行われます。
100g(mL)を超えるような巨大な前立腺肥大の場合には、開腹手術によって肥大した前立腺を摘出することがありますが、通常は、尿道から内視鏡を挿入して行う手術が行われます。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P: Transurethral Resection of Prostate)
尿道から内視鏡を挿入し、内視鏡の先端に装着した切除ループに電流を流し(電気メスと同じ)、肥大した前立腺を尿道側から切除する方法です。前立腺切除は、少しずつ切除して、肥大した前立腺(内腺)を完全にくり抜くように切除します。
ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP: Holmiumu Laser Enucleation of Prostate)
尿道から内視鏡を挿入し、レーザーを照射しながら、肥大した前立腺(内腺)と外腺の間を剥離して、内腺の部分を塊としてくり抜きます。くり抜いた内腺は、膀胱の中で細かく砕いて、吸引して取り出します。
光選択的レーザー前立腺蒸散術(PVP: photoselective vaporization of the Prostate by KTP laser)
尿道から挿入した内視鏡下に高出力のレーザーを照射して、肥大した内腺を蒸散(蒸発)させながら、切除します。非常に出血量が少なく、大きな前立腺肥大にも行うことができ、術後の尿道へのカテーテル留置期間も短い利点があります。
ぺージ情報 | |
---|---|
ぺージ名 : | 前立腺肥大症 |
ページ別名 : | 未設定 |
ページ作成 : | kondo |
閲覧可 | |
グループ : | すべての訪問者 |
ユーザー : | すべての訪問者 |
編集可 | |
グループ : | 登録ユーザ |
ユーザー : | なし |
お気軽に投稿してください。一言でもどうぞ。病気の治療、薬の副作用のことなど。