胃癌 概要
胃癌は、胃壁のもっとも内側にある胃粘膜から発生します。 胃の中からバリウムによるX線検査や内視鏡検査を行うと早期に診断することが可能です。
症状は食欲がなくなったり、急に体重が減ったりして、徐々に全身状態が悪くなってきます。
治療は早期がんで粘膜内に留まり、リンパ節転移の可能性が低い癌は、内視鏡や腹腔鏡手術で切除します。 手術ができない場合の治療として補助的に化学療法(抗癌剤の投与)が行われることもあります。
原因
原因は、慢性的な胃炎を起こす要因や、塩分の摂り過ぎやこげた魚や肉などに含まれる発がん性物質が関係していると言われています。
最近では、ヘリコバクター・ピロリ菌が胃粘膜に炎症を繰り返すことによって慢性萎縮性胃炎を起こし、がんが発病するとも考えられています。
たばこなどは危険因子です。
症状
胃癌は、固まりになっていぼのように隆起したり、癌の部位が潰瘍のように凹む場合が多く、胃潰瘍ができるため胸焼け、胃がむかむかするなどが起き、食欲不振、吐き気、吐血、下血、貧血などの自覚症状も出ます。
胃癌が進行すると腫瘍からの出血を伴います。便が黒色となったり、軟便、下痢を起こします。さらに腫瘍の出血が続くと、貧血による自覚症状が起こります。
例えば、運動時の息切れ、疲労感などの症状が現れます。さらに進行すると腫瘍が増大し、腹部にしこりを認めます。
食物の通過障害、閉塞症状が現れることもあります。
検査 診断
診断のために患者の病歴を問診、触診、画像診断や臨床検査を行う。
下記のようないくつかの検査が行われる。
- 上部消化管X線撮影(Upper GI series)
- 胃内視鏡検査(Gastroscopic exam)
- 便潜血検査(Fecal occult blood test)
- 腫瘍マーカー
- 血液検査:癌胎児性抗原(CEA:Carcinoembryonic Antigen)など
- 超音波内視鏡検査
- 腹部CT(=Computed tomography)検査
- 腹部超音波走査
胃癌を確認するには、胃内視鏡検査かバリウムによる上部消化管X線検査が必要である。便の検査や血液検査では早期胃癌の発見は難しい。
内視鏡検査で、異常とおもわれる部位を医師が発見すると、組織の一部を一種のピンセットで採取する生検(biopsy)が実施される。
生検標本は病理医に送られ、ホルマリンで固定後に染料にて染色され顕微鏡下にて癌細胞の存在の有無が確認される。
場合によっては癌抗原による免疫染色が施される場合もある。生検とそれに続く病理検査が癌細胞の存在を確定する唯一の手段である。
上記の検査で胃癌であることが確定すると、医師は画像診断(内視鏡やX線検査)で胃癌が胃のどの範囲に広がるか、どの深さまで浸潤しているか、
肝臓などの他の部位に転移していないかを調べる。
病期分類
病期分類 | N0 | N1 | N2 | N3 |
T1 | IA | IB | III | V |
T2 | IB | II | IIIA | IV |
T3 | II | IIIA | IIIB | IV |
T4 | IIIA | IIIB | IV | IV |
H1,P1,CY1,M1 | IV | IV | IV | IV |
記号説明
- 胃壁深達度の程度
- T1 癌の浸潤が粘膜(M)または粘膜下層(SM)にとどまるもの
- T2 癌の浸潤が粘膜下層を越えているが、固有筋層(MP)または漿膜下組織(SS)にとどまるもの
- T3 癌の浸潤が漿膜下組織を越えて漿膜に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔に露出しているもの(SE)
- T4 癌の浸潤が直接他臓器まで及ぶもの(SI)
- 補足 癌は粘膜から発生して、増大するとともに胃の壁の外側へと広がっていきます。その、広がりの程度を壁深達度として表します。
- リンパ節転移の程度
- N0 第1群から第4群までのリンパ節に転移を認めないもの
- N1 第1群リンパ節にのみ転移を認めるもの
- N2 第2群リンパ節まで転移を認めるもの
- N3 第3群リンパ節まで転移を認めるもの
- 補足
胃の周囲のリンパ節を胃に近いものから順に第1群から第4群までに分類します。通常は胃に近いものから転移が起こります。
- 補足
- 腹膜転移
- P0 腹膜転移を認めない
- P1 腹膜転移を認める
- 補足
癌の細胞がおなかの中でばらまかれた状態を、腹膜播種といいます。
- 補足
- 肝転移
- H0 肝転移を認めないもの
- H1 肝転移を認める
- 腹腔細胞診
- CY0 腹腔細胞診で癌細胞を認めないもの
- CY1 腹腔細胞診で癌細胞を認める
- 遠隔転移
- M0 肝転移、腹膜転移、腹腔細胞診陽性以外の遠隔転移を認めないもの
- M1 肝転移、腹膜転移、腹腔細胞診陽性以外の遠隔転移を認めるもの
一般的には病期別に以下の治療法が推奨されています。
- A期(腫瘍が粘膜に限局している場合)
- 腫瘍組織が分化型で2.0cm以下、あるいは陥凹型で潰瘍なし。
EMR- 上記以外
縮小手術(胃切除範囲が2/3未満の切除)
- 上記以外
- 腫瘍組織が分化型で2.0cm以下、あるいは陥凹型で潰瘍なし。
- IA期(腫瘍が粘膜下層に達している場合)
- 腫瘍組織が分化型で2.0cm以下
縮小手術
- 腫瘍組織が分化型で2.0cm以下
- IB期(腫瘍が粘膜下層までに限局している場合)
縮小手術- IB期(上記以外)
定型手術(胃切除範囲が2/3以上で2群のリンパ節廓清)
- IB期(上記以外)
- II期
定型手術 - IIIA期、IIIB期(腫瘍が他臓器に及んでいる場合)
拡大手術- IIIA期、IIIB期(上記以外)
定型手術、拡大手術
- IIIA期、IIIB期(上記以外)
- IV期
緩和手術、化学療法、緩和医療
肉眼的分類
胃癌取り扱い規約によると肉眼的分類としては以下のようになる。
- 0型
表在型 病変の肉眼的形態が軽度な隆起や陥凹を示すに過ぎないもの。 - 1型
腫瘤型 明らかに隆起した形態を示し、周囲粘膜との境界が明瞭なもの。 - 2型 潰瘍限局型 潰瘍を形成し、潰瘍をとりまく胃壁が肥厚し周堤を形成し、周堤と周囲粘膜との境界が比較的明瞭なもの。
- 3型 腫瘍浸潤型 潰瘍を形成し、腫瘍をとりまく胃壁が肥厚し周堤を形成するが、周堤と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの。
- 4型 びまん浸潤型 著明な潰瘍形成も周堤もなく、胃壁の肥厚・硬化を特徴とし、病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの。
- 5型 分類不能 上記分類に当てはまらないもの。
また、0型については以下のような亜分類が用いられる。
- I型 隆起型 明らかな腫瘤状の隆起が認められるもの。
- II型 表面型 明らかな隆起も陥凹も認められないもの。
- IIa型 表面隆起型 表面型であるが、低い隆起が認められるもの。
- IIb型 表面平坦型 正常粘膜に見られる凹凸を越えるほどの隆起・陥凹が認められないもの。または肉眼的に病変の存在を認めがたいもの。
- IIc型 表面陥凹型 わずかなびらん、または粘膜の浅い陥凹が認められるもの。
- III型 陥凹型 明らかに深い陥凹の存在するもの。
- 0型では単一の分類型を示さないことも多い(隆起と陥凹が混在する、陥凹の浅い部分と深い部分があるなど)。そのときはより広い病変から+でつないで表現する(IIa+IIcなど)。
薬
- 5-FU錠(一般名:フルオロウラシル)
- シスプラチン点滴静注(一般名:シスプラチン)
- メソトレキセート錠(一般名:メトトレキサート)
- パクリタキセル注射液(一般名:パクリタキセル)
- トポテシン点滴静注(一般名:イリノテカン塩酸塩水和物)
治療法
内視鏡治療
内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)は、内視鏡(胃カメラ)を用いて胃粘膜の腫瘍を切除するものであり、ごく早期の胃癌に適応となる。
日本胃癌学会治療ガイドラインでは、分化型で2cm以下の潰瘍形成を伴わない粘膜病変に適応があるとされている。
外科手術
胃癌に対する外科手術の基本は、胃切除+リンパ節郭清+消化管再建である。腹腔内へのアプローチの方法により、腹腔鏡下手術と開腹手術に分けられる。
腹腔鏡下手術は、比較的早期の胃癌に適応が限定されている。開腹手術は、癌の存在部位により、胃全摘術、幽門側胃切除術(十二指腸側2/3程度の胃切除)、噴門側胃切除術(食道側1/2程度の胃切除)などが行われ、リンパ節郭清が行われる。
また、癌が他臓器に直接浸潤しており、かつ腹膜播種や遠隔転移が無ければ、他臓器合併切除を行う拡大手術が検討される。
切除が終わったら、食物の通り道をつなぐために消化管再建が行われる。様々な再建法があり個々の患者の状態に応じて選択されるが、
代表的なものはBillroth I法(胃-十二指腸吻合)、Billroth II法(胃-空腸吻合9、Roux en Y法(食道or胃-空腸吻合)、空腸間置法(空腸で置換)などである。
完全切除が不能であれば定型的な手術は行わないのが通常であるが、出血や嘔吐や痛みが強い場合は症状の緩和を目的に胃切除術が行われることがある。また他臓器に広範な浸潤があり物理的に切除不能な場合でも、食物の通り道を確保する目的でバイパス術が行われることがある。
化学療法
化学療法は薬剤で癌細胞を破壊することを目的とするものである。
投与された薬剤は血液中に入り、体の隅々に運ばれるので、全身治療に分類される。手術不能例や、再発例、手術で完全に胃癌の組織が切除できなかった際に行われる。
しかしながら胃癌は比較的化学療法が効きにくい癌であり、化学療法単独で胃癌が完全に治ることはほとんどなく、延命効果や苦痛緩和が得られるに過ぎない。
また、外科手術前に腫瘍を縮小させる術前化学療法や、手術後に残る微小癌細胞の再発予防を目指す術後補助化学療法としても行われる。
腹腔内に直接抗癌剤を投与する治療法(intraperitoneal chemotherapy)も癌性腹膜炎に対する治療として行われている。
疼痛軽減や、閉塞症状の改善のために化学療法が進行癌の症状を緩和することを目的に施されることもある。
化学療法は間欠的に実施されることが普通で、投与の後に回復期間や他の治療の為の休薬の期間等が置かれる(抗癌剤の投与時に入院したり、外来で点滴・注射されたり、自宅での経口剤投与など)。
多くの抗癌剤は注射剤であるが、いくつかの経口剤も存在する。
胃癌に対してよく使われる抗癌剤はフルオロウラシル、シスプラチン、メソトレキセート、パクリタキセル、イリノテカンなど、もしくはその類似薬である。
抗癌剤は効果を上げるために組み合わせて使用されることが多く、その方法によっては半数近い患者に腫瘍縮小効果を上げることができる。
TS-1(商品名)は日本で開発された抗癌剤であり、経口剤でありながら単剤での奏効率が3割程度と高く、日本国内では広く使用されている。
治療の副作用
癌細胞だけを除去したり破壊したりするだけに留める事は困難である。健全な細胞あるいは組織も障害を受けるため、治療には好ましくない副作用が発生する。
癌治療の副作用は患者毎に異なり、今回の治療とそれ以降に受ける治療とでも異なる。医者は副作用が最小限になるように治療方針を組み立て、
発生する問題に対処することができる。それゆえ、医者が治療中あるいは治療後に発生する問題を把握できるようにすることが重要である。
外科手術の副作用
胃切除術は消化器外科の中では一般的な手術である。手術後に一定期間、患者は安静にしている必要がある。
手術後の数日は点滴で(経静脈的に)栄養を摂取する。術後は日が経つにつれ、一般に患者は、液体、柔らかいもの、固形物の順に食事を摂れるようになる。
胃切除をおこなうと、患者は一時的あるいは恒久的にある種の食物を消化することが困難になる。そのさいは、医師あるいは栄養士が食事内容の変更を指示する。
胃を完全に切除した患者はビタミンB12を吸収することが出来ない。このビタミンは血液や神経の健康維持に必須であり、胃全摘の手術後に数年すると体内の備蓄が枯渇し欠乏症状が発生するために、このビタミンを注射で投与する必要がある。
胃切除患者の一部は、食物や飲料が小腸に急激に流れ込むために、食事後に腹痛、吐き気、下痢あるいはめまいを引き起こす。
この種の症状をダンピング症候群(dumping syndrome)と呼ぶ。食物に大量の糖分が含まれていると、この症状は悪化しやすい。
ダンピング症候群は食事内容の変更で治療可能である。1回あたりの食事の量を減らし、食事の回数を増やすことや、糖分を多く含む食事を避け、たんぱく質の多い食事を取ることで改善する。ダンピング症候群を抑えるために薬剤を投与することもある。
この症状は3ヵ月~12ヶ月ほどで通常は消失するが、一部の患者はもっと長く続く。
化学療法の副作用
一般的に、抗癌剤は細胞分裂が活発な細胞により強く作用する。
人体の健康な細胞の中では血液細胞が細胞分裂がもっとも活発で抗癌剤の影響を受けやすい。これらの血液の細胞は感染を防御したり、血液凝固を補助したり、体中に酸素を運搬したりする働きを持っている。
正常血液細胞が抗癌剤の作用を受けると、白血球が減少して感染症に罹りやすくなったり、血小板が減少して出血しやすくなったりする。また赤血球が減少して貧血状態になったりすることもある。
血液系の細胞についで、毛根細胞や消化管上皮の細胞も分裂が活発であるので、化学療法を受けると患者は食欲減退、吐き気、嘔吐、脱毛、あるいは喉の脹れなどの副作用が現れる。
このような副作用は普通、化学療法の投薬の合間や化学療法が終わると徐々に回復する。
放射線療法の副作用
腹部に放射線照射を受ける患者は吐き気、嘔吐、下痢を起こすこともある。照射する場所の皮膚に赤発、乾燥、腫れ、痒みを生じることもある。
患者は照射部位を着衣が擦らないように、ゆるい木綿の下着を着用するのが良い。患者は放射線療法の期間中は皮膚の手入れに注意を払い、医者の指示がなければローションやクリームを使うべきではない。
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