前立腺肥大症とは、前立腺が肥大して、様々な排尿の症状を引き起こす病気です。
前立腺は男性にしかない生殖器の一つで、前立腺液といわれる精液の一部を作り、精子に栄養を与えたり、精子を保護する役割を持っています。
前立腺は直腸と恥骨の間にあり、膀胱の出口で尿道を取り囲んでいます。このため、前立腺が肥大すると尿道が圧迫されて、排尿に関わるいろいろな症状が出現します。
前立腺は、尿道の周囲にある内腺とその周りにある外腺に区分されますが、前立腺肥大は尿道周囲の内腺に発生し、前立腺がんは外腺に発生します。
自覚症状の程度(重症度)の評価には、症状質問票を用います。世界共通で用いられている国際前立腺症状スコアは、7つの症状について、その頻度毎に点数がつけられており、前立腺肥大症の症状の程度をスコアで評価することができます。
症状とは別に、付随するQOLスコア質問票で、前立腺肥大症の症状がどれくらい支障となっているかを評価することもできます。
国際前立腺症状スコア(IPSS:International prostate symptom score)
- | まったく なし | 5回に1回の 割合未満 | 2回に1回の 割合未満 | 2回に1回の 割合 | 2回に1回の 割合以上 | ほとんど 常に |
1.最近1ヶ月間、排尿後に尿が まだ残っている感じがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
2.最近1ヶ月間、排尿後2時間以内に もう一度しなくてはならないことがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
3.最近1ヶ月間、排尿途中に 尿が途切れることがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
4.最近1ヶ月間、排尿を 我慢するのがつらいことがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
5.最近1ヶ月間、尿の勢いが 弱いことがありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
6.最近1ヶ月間、排尿開始時に いきむ必要がありましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
7.最近1ヶ月間、床に就いてから朝起きるまでに 普通何回排尿に起きましたか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
QOLスコア
- | 大変満足 | 満足 | 大体満足 | 満足・不満 の どちらでもない | 不満気味 | 不満 | 大変 不満 |
現在の排尿の状態が、 今後一生続くとしたらどう感じますか。 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
肛門から直腸に指を入れ、前立腺に触れることで、前立腺の形や硬さ、痛みの有無を調べます。前立腺に炎症があると強い痛みがあり、また前立腺癌があると硬い腫瘤を触れることがありますので、前立腺肥大症以外の疾患をチェックするのに重要な検査です。
トイレ型の検査機器に排尿すると、尿の出方がグラフで示され、尿の勢い(1秒間にどれくらいの尿が排出されるか)、排尿量、排尿時間などが自動的に数値化されて表示されます。簡便に排尿障害の有無や程度をスクリーニングすることができます。
PSAは前立腺から分泌される特異なタンパクで、血液検査により血液中のPSA濃度を測定することができます。
PSAは前立腺癌のスクリーニング検査として有用で、正常値は4ng/mL以下ですが、前立腺癌があると正常値を超えて上昇します。4~10ng/mLの上昇はグレーゾーンと言われ、前立腺癌以外に、前立腺肥大症や前立腺炎でもみられることがあります。
超音波検査により、前立腺を描出して、前立腺の大きさ(体積)を計測します。超音波検査は、超音波を発信する装置を、下腹部からあてる、あるいは肛門から挿入する、いずれかの方法で行われます。
直腸内指診では正確な前立腺サイズの評価は困難ですが、超音波検査により正確に前立腺サイズを評価することができます。
圧尿流検査は、尿道から膀胱にカテーテルを挿入して、膀胱に生理食塩水を注入しながら膀胱の内圧を測定し(膀胱の蓄尿機能を調べます)、膀胱が充満したら排尿して、膀胱の収縮圧と尿流測定を同時に測定する(膀胱の排尿機能を調べます)検査です。
この検査により、蓄尿期においては、尿意が正常であるかどうか、過活動膀胱の有無、膀胱がどれくらいの尿を貯めることができるか、などを知ることができます。
排尿期においては、膀胱の収縮力が正常かどうか、前立腺肥大による通過障害の有無あるいは程度を知ることができます。
前立腺が非常に大きく肥大していたり、多量の残尿がある場合に、腎機能障害の有無を調べるために、血液検査で血清クレアチニンという物質の測定を行います。クレアチニン値が上昇していれば、腎機能障害が疑われます。
クレアチニンの測定と同様に、前立腺肥大症の合併症として水腎症の有無(腎臓が腫れているかどうか)を調べるために腹部超音波検査により腎臓を描出して検査します。
前立腺肥大症が進行すると、症状の悪化のみでなく合併症を引き起こすことがあります。
α1受容体遮断薬は、前立腺肥大症に伴う排尿困難の薬として使われる内服薬です。
前立腺平滑筋に対する交感神経緊張状態を抑えることにより、前立腺を弛緩させ、その結果として、前立腺の尿道に対する圧迫を軽減します。また、前立腺肥大症に伴う過活動膀胱の改善にも効果があり、排尿困難だけでなく、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感などの蓄尿症状の改善にも有効であることが示されています。
血液中の男性ホルモン(テストステロン)が、前立腺組織に作用するのを抑える作用があります。血液中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれると、5α還元酵素の作用によりジヒドロテストステロンに変換され、このジヒドロテストステロンが前立腺細胞の増殖に働きます。
5α還元酵素阻害薬は、前立腺細胞の中でテストステロンをジヒドロテストステロンに変換する5α還元酵素の作用を抑えることにより、前立腺細胞の増殖を抑制し、その結果肥大した前立腺が縮小します。この薬を長期間服用することにより肥大した前立腺が縮小して、排尿困難の症状を改善します。
この薬の作用はα1受容体遮断薬と異なり、効果があらわれるのに数ヶ月かかるので、長期間の内服が必要です。前立腺が大きい場合や、α1受容体遮断薬による治療で効果が不十分な場合には、α1受容体遮断薬と5α還元酵素阻害薬が併用されることもあります。
前立腺に対する男性ホルモンの作用を抑える薬ですが、5α還元酵素阻害薬とは作用機序が異なります。
抗アンドロゲン薬は精巣からのテストステロン産生を抑制するとともに、血液中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれるのも抑制します。
この薬も、肥大した前立腺を縮小して、排尿困難の症状を改善します。
副交感神経終末や血管内皮細胞から産生されるNO(一酸化窒素)は、平滑筋細胞内でcGMPの産生を促進し、平滑筋を弛緩します。
cGMPはPDE(ホスホジエステラーゼ)5の作用により分解されますが、PDE5阻害薬はNOにより産生されるcGMPの分解を抑制することにより、膀胱頸部・尿道および前立腺の平滑筋を弛緩して前立腺肥大症に伴う下部尿路症状を改善します。
薬物治療を行っても、症状の十分な改善が得られない場合や、前述したような肉眼的血尿、尿路感染、尿閉を繰り返す場合、あるいは膀胱に結石ができたり、腎機能障害が発生した場合には手術による治療が行われます。
100g(mL)を超えるような巨大な前立腺肥大の場合には、開腹手術によって肥大した前立腺を摘出することがありますが、通常は、尿道から内視鏡を挿入して行う手術が行われます。
尿道から内視鏡を挿入し、内視鏡の先端に装着した切除ループに電流を流し(電気メスと同じ)、肥大した前立腺を尿道側から切除する方法です。前立腺切除は、少しずつ切除して、肥大した前立腺(内腺)を完全にくり抜くように切除します。
尿道から内視鏡を挿入し、レーザーを照射しながら、肥大した前立腺(内腺)と外腺の間を剥離して、内腺の部分を塊としてくり抜きます。くり抜いた内腺は、膀胱の中で細かく砕いて、吸引して取り出します。
尿道から挿入した内視鏡下に高出力のレーザーを照射して、肥大した内腺を蒸散(蒸発)させながら、切除します。非常に出血量が少なく、大きな前立腺肥大にも行うことができ、術後の尿道へのカテーテル留置期間も短い利点があります。