橋本病(慢性甲状腺炎)は、甲状腺における慢性の炎症のために、びまん性の甲状腺腫大や甲状腺機能低下症を生じる中年の女性に多い疾患です。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は上昇、総トリヨードサイロニン(T3)、総サイロキシン(T4)は低下し、甲状腺の組織成分に対する自己抗体として、抗サイログロブリン(Tg)抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体などが検出されます。
男性と女性の発症率の割合は1:13で女性のほうが圧倒的に多いです。
1912年(大正元年)、九州大学の外科医であった橋本策(はかる)博士は、世界で初めてこの病気に関する論文をドイツの医学雑誌に発表しました。
橋本病は、博士の名前にちなんでつけられた病名です。 橋本病は「慢性甲状腺炎」ともいいますが、この名はこの病気の成り立ちに由来するものであり、甲状腺に慢性の炎症が起きている病気という意味で、このように呼ばれることもあります。
大部分の症例では甲状腺機能は正常であり、首がはれる以外には症状が出にくいですが、病態が進行し機能低下に陥ると症状が現れます。
1.甲状腺種
2.甲状腺機能亢進症状
3.甲状腺機能低下症
橋本病は中年女性に多くみられる疾患であるため、橋本病による症状と閉経に伴う症状や不定愁訴との鑑別に注意が必要です。
橋本病の診断には、びまん性(甲状腺全体に広がっている状態)の甲状腺腫があることと、甲状腺ホルモンの産生が高まっていないこと(バセドウ病ではないこと)の確認が必要です。
血液中の甲状腺ホルモン濃度の測定をします。 また、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定も行います。
甲状腺機能亢進状態では、血中甲状腺ホルモン(T3、T4、遊離T3、遊離T4)は高値を示し、TSHは低値となります。
逆に少しでも甲状腺ホルモンの不足があると、それを下垂体が敏感に感じてTSHの分泌を増やし、血液中の濃度が上がります。つまりTSHの濃度が少しでも高ければ、甲状腺ホルモンの不足があるということになり、甲状腺の機能が低下していることがわかります。
また、甲状腺機能低下症では血中のコレステロールが増えるため、このことから甲状腺機能低下症が見つかることもあります。
甲状腺腫があり、かつ甲状腺機能低下症があれば橋本病であると診断出来ますが、甲状腺機能に異常がない場合は、「甲状腺の組織成分に対する抗体」があるかないかで診断します。
甲状腺種が大きくなく、甲状腺機能が正常である場合には治療の必要はなく、経過観察を行います。しかし、甲状腺ホルモンの血中濃度が低下した場合は、治療を行います。
機能亢進状態においては、頻拍に対してβブロッカーの投与などの対症療法を行います。機能低下症に陥った場合には、甲状腺ホルモン製剤による補充療法がよく用いられます。
甲状腺機能が低下して、甲状腺ホルモンの分泌が少なくなると、心臓や腎臓などの臓器の働きが悪くなります。それにより、さまざまな症状が現われますが、その中で浮腫みには注意が必要です。
全身、特に顔と四肢にむくみが現われます。このむくみの成分は、ナトリウムを含んだ水分で、この水分は甲状腺ホルモンの不足により増えるプロテオグリカン(糖タンパク)と結びついています。
むくみの特長は、指で押さえても、すぐに元通りになることです。
橋本病の患者がヨウ素を過剰に摂取すると、甲状腺ホルモンの分泌量が少なくなります。
海藻類、特にコンブには、ヨウ素が多く含まれています。コンブを毎日食べると、治療の必要のない橋本病が悪化してしまうことがあります。