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脳腫瘍 :: 医療 Wiki

illness:脳腫瘍

ページ内コンテンツ
  • 概要
    • 脳の各部位が担う機能
    • 症状
    • 診療科
    • 検査
    • 診断
    • 分類
      • 原発性脳腫瘍
      • 脳実質から生じる腫瘍
        • 神経膠腫
      • 脳付属器から生じる腫瘍
        • 髄膜腫
        • 下垂体腺腫
          • 症状
          • 治療
        • 神経鞘腫
        • 頭蓋咽頭腫
      • 転移性脳腫瘍
    • 治療法 
      • 手術(外科治療)
      • 放射線治療
        • 放射線治療の副作用
      • 抗がん剤治療(化学療法)
        • 抗がん剤の副作用

概要 anchor.png[1]

脳腫瘍とは頭蓋内に発生する腫瘍の事を言います。
他の部位との大きな違いは、固い頭蓋骨に覆われていることと、やはり脳という複雑な器官であるために診断が難しいばかりではなく、たとえ良性であったとしても生命の危険を生じる事があり、手術においても容易ではありません。
脳腫瘍には二つに分類され、「脳組織自体から発生する腫瘍」、「他の臓器の 腫瘍から転移した腫瘍」に分けられます。前者を「原発性脳腫瘍」、後者を「転移性脳腫瘍」といいます。
転移性脳腫瘍は主に、肺がん[2]乳がん[3]から転移することが多く脳腫瘍自体の発生率は、 10万人中に12人とされております。

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脳の各部位が担う機能 anchor.png[4]

  • 前頭葉
    思考、意欲、情動、創造などを担う脳の最高中枢です。言葉を発するという命令や、手足を動かすといった運動の命令も出しています。
  • 頭頂葉
    体性感覚*1を感知し、これらの情報を統合しています。また物体間の距離や上下、左右、場所などの理解にもかかわっています。
  • 後頭葉
    目から入ってきた色や形、動きなどの情報をまとめて、物体の視覚的イメージを形成します。
  • 側頭葉
    音や言葉の意味の理解にかかわっています。また、物体の視覚的イメージから、顔の識別など、見たものが何であるかを認識します。
  • 下垂体[5]視床下部[6]
    下垂体[5]はホルモンの司令塔です。視床下部[6]は、さまざまなホルモンの量を常に監視し、生体が正常に機能するために都合のよいよう、下垂体[5]に対して指令を出しています。
  • 小脳
    手足をスムーズに動かしたり、体のバランスをとるための筋肉の無意識の動きを制御しています。
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症状 anchor.png[7]

頭痛、嘔気、嘔吐、麻痺、歩きずらくなる、目が見えづらくなる、耳の聞こえがわるくなる、めまいがする、しゃべりにくくなる、認知症になるなど様々で、多くは徐々に悪化してきます。痙攣のように突然現れることもあります。

  • 頭蓋内圧亢進症状
    頭痛、嘔気、意識障害などが起こります。人間の頭蓋内圧は、睡眠中にやや高くなるので、朝起きたときに症状が強く出ます。
  • 局所症状(巣症状)
    脳は神経の中枢であり、運動や感覚などのさまざまな機能は脳の中でそれぞれ担当する部位が決まっています。脳の中に腫瘍ができると、腫瘍によってその部位の機能が障害され、局所症状として出現するため、脳のどの部位がどのような機能を担っているのかを理解することが大切です。
    人の脳は大脳半球と呼ばれる左右の脳に分かれ、多くの人が左の大脳半球が優位半球となっています。優位半球とは言語中枢(話す、理解する)がある大脳半球で、この優位半球が障害されると、言葉での意思の疎通が障害される可能性が出てきます。
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診療科 anchor.png[8]

脳外科

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検査 anchor.png[9]

脳腫瘍が疑われると、腫瘍の位置・大きさを確かめるためには、CT(コンピューター断層)やMRI(磁気共鳴画像)などで頭の中の画像検査を行います。また、脳に栄養を供給している血管と腫瘍との関係を見るために、脳血管造影検査を行うこともあります。

  • 脳血管造影検査
    大腿部もしくは肘ひじや手首の動脈に挿入したカテーテル(細い管)から造影剤を注入して、脳や腫瘍の血管の様子を調べます。
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診断 anchor.png[10]

CTやMRI検査[11]によって、脳腫瘍かどうか、また脳腫瘍である場合、腫瘍の性質や種類、発生部位などを推測することが可能ですが、確定診断には、腫瘍組織の細胞を顕微鏡で観察して病理医が診断する病理検査(病理診断)が必要です。

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分類 anchor.png[12]

脳腫瘍は原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍とに分かれます。さらに、原発性の脳腫瘍には、脳実質から生じる腫瘍と脳付属器から生じる腫瘍があります。

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原発性脳腫瘍 anchor.png[13]

  • 腫瘍の性質
    脳腫瘍の性質は腫瘍の増殖速度と広がりなどによって決められます。増殖速度が速く、浸潤性に広がり、正常組織との境界がはっきりしない腫瘍は悪性で、主に脳の実質(大脳、小脳、脳幹、脊髄など)に生じます。
    一方、増殖速度が遅く、正常組織との境界が明瞭な腫瘍は比較的良性で、主に脳の付属器に生じます。
    • 播種(はしゅ)
      脳の腫瘍が脳以外の臓器に転移することはめったにありませんが、髄液の流れに乗って脳の別の部位に広がって、そこで増えることがあります。これらは播種と呼ばれます。
  • 腫瘍の悪性度
    脳腫瘍の悪性の程度(悪性度)は世界保健機関(WHO)が定めた4 段階(グレード1~4)の基準で示されます。グレード1 は、手術で取り除くことができれば、通常、再発の危険はかなり少なくなります。グレード2 、3 と4 の順に、腫瘍の増殖速度が速くなり、悪性度が増しているという指標として用いられます。
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脳実質から生じる腫瘍 anchor.png[14]

脳実質は、神経細胞と神経膠細胞(グリア細胞[15])から形成されますが、このうち神経膠細胞が腫瘍化したものを「神経膠腫(グリオーマ)」と呼びます。原発性脳腫瘍では髄膜腫についで多く見られます。
神経膠腫は浸潤性に増殖し、正常組織との境界がはっきりしません。また、脳の機能を保つために、治療による影響をできる限り少なくする必要があります。このことから、神経膠腫では腫瘍のすべてを手術によって切除することが難しく、一部を切除した後に残存腫瘍に対して放射線や抗がん剤による治療を行います。神経膠腫の多くは悪性ですが、一部では切除可能なものもあります。髄液の流れに乗って脳の別の部位に転移することも
あります(播種)。

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神経膠腫 anchor.png[16]

神経膠腫は腫瘍化している細胞の種類によって分類されます。神経膠細胞には星細胞、乏突起膠細胞、上衣細胞などがあり、これらの細胞が腫瘍化したものを、それぞれ星細胞腫、乏突起膠細胞腫、上衣腫といいます。
神経膠腫の中で最も多く見られるのは星細胞腫で、その悪性度によって大きく4 段階(グレード1 ~4)に分けられます。
グレード4の星細胞腫は膠芽腫と呼ばれ、脳腫瘍の中でも悪性度の最も高い腫瘍の1 つとされています。

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脳付属器から生じる腫瘍 anchor.png[17]

脳の付属器から生じる腫瘍は正常組織との境界がはっきりしているため切除できるものが多く、完全に切除できれば治癒が可能です。ただ、脳の奥深くにある一部の腫瘍などに対しては、部分切除を行った上で、切除後に放射線治療を行うことがあります。腫瘍の増殖速度が遅いため、すぐには治療の必要がないと判断した場合には、しばらく経過を観察することがあります。
脳付属器から生じる腫瘍は基本的には良性であり、がんのように転移することはまれです。これらの腫瘍には髄膜腫、下垂体腺腫[18]、神経鞘腫などがあります。

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髄膜腫 anchor.png[19]

髄膜は頭蓋骨の内側にある脳を包んでいる膜です。髄膜は外側から硬膜、クモ膜、軟膜という3層の構造になっており、これらから生じる腫瘍を髄膜腫といいます。原発性脳腫瘍の中では、最も発生頻度の高い脳腫瘍です。大部分の髄膜腫は良性ですが、まれに悪性化するものもあります。

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下垂体腺腫[18] anchor.png[20]

下垂体腺腫[18]は、脳の中心部に位置する下垂体[5]の一部が腫瘍化したもので、原発性脳腫瘍では3番目に多い腫瘍です。ホルモンを過剰に分泌するもの(ホルモン産生腺腫)と、ホルモンを分泌しないもの(ホルモン非分泌性腺腫)に分けられます。ホルモン産生腺腫には、プロラクチン[21]産生腺腫、成長ホルモン[22]産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病[23])などがあります。

  • ホルモンとは
    生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達を担う物質で、ごく微量で作用します。視床下部[6]から指令を受け、下垂体[5]はホルモンの中枢として全身の各臓器に働きかけ、ホルモンの分泌を促す役割を担っています。下垂体[5]は前葉と後葉に分かれており、さまざまなホルモンが分泌されています。
下垂体[5]から分泌される主なホルモン
-ホルモンの種類主な働き
前葉プロラクチン[21]乳汁を分泌させる
成長ホルモン[22]手足や内臓の成長を促す
副腎皮質刺激ホルモン*副腎に働きかけ、副腎皮質ホルモン[24]を分泌させる
甲状腺刺激ホルモン*甲状腺に働きかけ、甲状腺ホルモン[25]を分泌させる
性腺刺激ホルモン性ホルモンの分泌や、精子・卵の正常な発育を促す
後葉抗利尿ホルモン*腎臓に働きかけ、尿の濃度や量を調節する
オキシトシン分娩時に子宮を収縮させる
乳汁の分泌を促す
*性別を問わず生涯必要なホルモン
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症状 anchor.png[26]

腫瘍が大きくなることによって周囲の組織を圧迫して生じる症状と、ホルモン産生の変化による症状とに大別されます。

  • 圧迫による症状
    腫瘍が大きくなって視神経や視神経交叉部を圧迫することにより、視力や視野(見える範囲)に障害が生じます。ホルモン非分泌性腺腫では、腫瘍の圧迫によりホルモンの産生が障害され(下垂体[5]機能低下症)、男性では体毛が薄くなり、性欲低下や勃起不全などの性機能障害が、また女性では月経不順が見られます。抗利尿ホルモンの産生が障害されると、尿の濃度がうまく調節されず、薄い尿が大量に出る症状(尿にょうほうしょう崩症)が起こります。
  • ホルモン産生の変化による症状
    ホルモン産生腺腫では、産生されるホルモンの種類によって症状が異なります。

ホルモン産生腺腫で見られる症状

    • プロラクチン[21]産生腺腫
      女性では乳汁分泌と月経不順が見られます。男性では性欲低下や勃起不全などの性機能障害が見られます。
    • 成長ホルモン[22]産生腺腫
      手足の先端や、額、あご、唇、舌などに肥大が見られます。成長ホルモン[22]の異常分泌が長期間続くと、糖尿病[27]高血圧[28]などを合併しやすくなります。
    • 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病[23]
      顔が丸くなり、手足に比べ胸や腹部が太ってきます。にきびができやすくなり、体毛が濃くなります。高い割合で高血圧[28]糖尿病[27]を合併します。
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治療 anchor.png[29]

ほかの脳付属器から生じる腫瘍と同様に手術を主体とし、残存腫瘍に対しては放射線治療が行われますが、成長ホルモン[22]産生腺腫に対しては、ホルモン類似薬による治療も有効です。手術で腫瘍を切除するとホルモンの産生が障害されますので、治療後、不可欠なホルモンについては、その欠乏の程度により補充治療を行います。なお、プロラクチン[21]産生腺腫に対しては、最近では手術しないで内服薬で治療することが可能になってきました。

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神経鞘腫 anchor.png[30]

脳から出る神経は、それぞれ頭蓋骨を通り抜けて、目や耳、舌など頭部の各部分につながっていますが、これらの神経を取り巻いて支えている鞘さやのような組織(神経鞘)から生じる腫瘍を神経鞘腫といいます。聴神経に生じることが最も多く、次いで三叉神経などに生じます。

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頭蓋咽頭腫 anchor.png[31]

下垂体[5]と視神経の近くに生じる先天性腫瘍の一種で、小児に多く見られる腫瘍ですが、大人でも発症することが知られています。腫瘍が大きくなると、腫瘍のすぐ近くにある視神経や視神経交叉部を圧迫するため、視力や視野の障害が起こります。また、下垂体[5]視床下部[6]の圧迫によりホルモンの産生が低下し、月経不順や性機能障害、尿崩症、甲状腺機能低下などが起こります。
治療後に下垂体[5]ホルモンが不足する場合は、ホルモンの補充が必要になります。

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転移性脳腫瘍 anchor.png[32]

肺がん[2]乳がん[3]大腸がん[33]など、別の臓器で生じたがんが血液の流れによって脳に運ばれ、そこで増えることによって腫瘍が発生することがあります。これを転移性脳腫瘍といいます。頭蓋内圧亢進症状や局所症状など、腫瘍の大きさや位置によって症状は異なります。
治療方法は、転移のもととなったがんの状態、全身状態、転移した脳腫瘍の数と大きさ、分布などによって決定されます。それぞれの患者さんの状況に合わせて、手術と放射線治療、抗がん剤治療(化学療法)などを組み合わせた治療が行われます。

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治療法  anchor.png[34]

脳腫瘍の治療には、手術(外科治療)、放射線治療、抗がん剤治療(化学療法)があります。
腫瘍の大きさや場所、症状や患者さんの状態、予想される腫瘍の種類や悪性度などを考慮して治療法が選択されます。

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手術(外科治療) anchor.png[35]

手術によって病変をすべて摘出できれば、それが最も有効な治療法です。しかし、脳には体を正常に保つための多くの機能が備わっていますから、それらの機能を維持するために、場所によっては腫瘍をすべて摘出せず、一部を残すこともあります。

たとえ腫瘍の一部を残すことになっても、手術によって病変を小さくすることは、放射線治療や抗がん剤治療の効果を高める上で価値があります。なお、他の腫瘍では、良性の場合は経過観察になりますが、脳腫瘍の場合は、良性と推測される場合であっても脳を圧迫して障害を引き起こすため、手術で摘出することが勧められます。
また、手術や生検(腫瘍の一部を採取すること)で得られた腫瘍組織は、病理診断によって腫瘍の性質や悪性度を診断し、放射線治療や抗がん剤治療の方針を決定します。

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放射線治療 anchor.png[36]

高エネルギーのX線やそのほかの放射線を照射して、腫瘍を破壊する方法です。脳腫瘍の治療において、放射線治療は重要な治療法の1つであり、単独あるいは手術や抗がん剤治療と組み合わせて行われます。
治療の際には、放射線をできるだけ腫瘍部分だけに照射し、正常組織には照射しない、もしくは照射量が少なくなるようにします。

  • 悪性腫瘍の放射線治療
    悪性腫瘍は周辺の組織にしみ込んでいく(浸潤性)ように広がり、正常組織との境界がはっきりしないので、腫瘍のみに放射線を当てることが難しくなります。そのため、悪性腫瘍では、1週間に数回、数週間にわたって、正常細胞への照射がなるべく少なくなるように工夫しながら、腫瘍を中心に一部正常な脳を含めて放射線を当て、腫瘍を破壊します。
  • 良性腫瘍の放射線治療
    良性腫瘍は、正常組織との境界がはっきりしているため、正常な脳組織に放射線を当てず、腫瘍だけに集中して大量の放射線を照射することが可能な場合があります。これらは定位放射線治療と呼ばれ、ミリ単位の正確さで治療が可能です。放射線治療ですので、効果が出るまでには時間が多少かかりますが、ナイフで切ったようなきれいな治療効果が期待できます。
    • ガンマナイフ(γ ガンマ線)、サイバーナイフ(X線)という特殊な装置を使います。
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放射線治療の副作用 anchor.png[37]

放射線治療後すぐに現れる副作用としては、放射線が照射された部位に起こる皮膚炎・中耳炎・外耳炎などや、照射部位とは関係なく起こるだるさ、吐き気・嘔おうと吐、食欲低下などがあります。また、脳そのものの機能に影響が及ぶこともあります。中には、放射線治療が終了して数ヵ月~数年たってから起こる症状(晩期合併症)もあります。患者さんによって副作用の程度は異なります。

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抗がん剤治療(化学療法) anchor.png[38]

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抗がん剤の副作用 anchor.png[39]

抗がん剤は、腫瘍細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼします。特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、骨髄など新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、副作用としては、脱毛、口内炎、吐き気、下痢と、白血球や血小板、赤血球などが少なくなることによる感染症や、貧血[40]などがあります。そのほか薬剤によってもさまざまな副作用があり、生命にかかわる出来事が起きてしまう場合もありますが、正しく対処することで、これらを極力減らすことができます。


*1 体性感覚とは、痛さ、冷たさ、温かさ、触れた感じ、振動、関節の角度や位置、押さえられた感じ。

Last-modified: 2012-12-03 (月) 19:01:20 (JST) (4161d) by kondo