脳腫瘍とは頭蓋内に発生する腫瘍の事を言います。
他の部位との大きな違いは、固い頭蓋骨に覆われていることと、やはり脳という複雑な器官であるために診断が難しいばかりではなく、たとえ良性であったとしても生命の危険を生じる事があり、手術においても容易ではありません。
脳腫瘍には二つに分類され、「脳組織自体から発生する腫瘍」、「他の臓器の 腫瘍から転移した腫瘍」に分けられます。前者を「原発性脳腫瘍」、後者を「転移性脳腫瘍」といいます。
転移性脳腫瘍は主に、肺がん[2]や乳がん[3]から転移することが多く脳腫瘍自体の発生率は、 10万人中に12人とされております。
頭痛、嘔気、嘔吐、麻痺、歩きずらくなる、目が見えづらくなる、耳の聞こえがわるくなる、めまいがする、しゃべりにくくなる、認知症になるなど様々で、多くは徐々に悪化してきます。痙攣のように突然現れることもあります。
脳外科
脳腫瘍が疑われると、腫瘍の位置・大きさを確かめるためには、CT(コンピューター断層)やMRI(磁気共鳴画像)などで頭の中の画像検査を行います。また、脳に栄養を供給している血管と腫瘍との関係を見るために、脳血管造影検査を行うこともあります。
CTやMRI検査[11]によって、脳腫瘍かどうか、また脳腫瘍である場合、腫瘍の性質や種類、発生部位などを推測することが可能ですが、確定診断には、腫瘍組織の細胞を顕微鏡で観察して病理医が診断する病理検査(病理診断)が必要です。
脳腫瘍は原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍とに分かれます。さらに、原発性の脳腫瘍には、脳実質から生じる腫瘍と脳付属器から生じる腫瘍があります。
脳実質は、神経細胞と神経膠細胞(グリア細胞[15])から形成されますが、このうち神経膠細胞が腫瘍化したものを「神経膠腫(グリオーマ)」と呼びます。原発性脳腫瘍では髄膜腫についで多く見られます。
神経膠腫は浸潤性に増殖し、正常組織との境界がはっきりしません。また、脳の機能を保つために、治療による影響をできる限り少なくする必要があります。このことから、神経膠腫では腫瘍のすべてを手術によって切除することが難しく、一部を切除した後に残存腫瘍に対して放射線や抗がん剤による治療を行います。神経膠腫の多くは悪性ですが、一部では切除可能なものもあります。髄液の流れに乗って脳の別の部位に転移することも
あります(播種)。
神経膠腫は腫瘍化している細胞の種類によって分類されます。神経膠細胞には星細胞、乏突起膠細胞、上衣細胞などがあり、これらの細胞が腫瘍化したものを、それぞれ星細胞腫、乏突起膠細胞腫、上衣腫といいます。
神経膠腫の中で最も多く見られるのは星細胞腫で、その悪性度によって大きく4 段階(グレード1 ~4)に分けられます。
グレード4の星細胞腫は膠芽腫と呼ばれ、脳腫瘍の中でも悪性度の最も高い腫瘍の1 つとされています。
脳の付属器から生じる腫瘍は正常組織との境界がはっきりしているため切除できるものが多く、完全に切除できれば治癒が可能です。ただ、脳の奥深くにある一部の腫瘍などに対しては、部分切除を行った上で、切除後に放射線治療を行うことがあります。腫瘍の増殖速度が遅いため、すぐには治療の必要がないと判断した場合には、しばらく経過を観察することがあります。
脳付属器から生じる腫瘍は基本的には良性であり、がんのように転移することはまれです。これらの腫瘍には髄膜腫、下垂体腺腫[18]、神経鞘腫などがあります。
髄膜は頭蓋骨の内側にある脳を包んでいる膜です。髄膜は外側から硬膜、クモ膜、軟膜という3層の構造になっており、これらから生じる腫瘍を髄膜腫といいます。原発性脳腫瘍の中では、最も発生頻度の高い脳腫瘍です。大部分の髄膜腫は良性ですが、まれに悪性化するものもあります。
下垂体腺腫[18]は、脳の中心部に位置する下垂体[5]の一部が腫瘍化したもので、原発性脳腫瘍では3番目に多い腫瘍です。ホルモンを過剰に分泌するもの(ホルモン産生腺腫)と、ホルモンを分泌しないもの(ホルモン非分泌性腺腫)に分けられます。ホルモン産生腺腫には、プロラクチン[21]産生腺腫、成長ホルモン[22]産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病[23])などがあります。
- | ホルモンの種類 | 主な働き |
前葉 | プロラクチン[21] | 乳汁を分泌させる |
成長ホルモン[22] | 手足や内臓の成長を促す | |
副腎皮質刺激ホルモン* | 副腎に働きかけ、副腎皮質ホルモン[24]を分泌させる | |
甲状腺刺激ホルモン* | 甲状腺に働きかけ、甲状腺ホルモン[25]を分泌させる | |
性腺刺激ホルモン | 性ホルモンの分泌や、精子・卵の正常な発育を促す | |
後葉 | 抗利尿ホルモン* | 腎臓に働きかけ、尿の濃度や量を調節する |
オキシトシン | 分娩時に子宮を収縮させる 乳汁の分泌を促す |
腫瘍が大きくなることによって周囲の組織を圧迫して生じる症状と、ホルモン産生の変化による症状とに大別されます。
ホルモン産生腺腫で見られる症状
ほかの脳付属器から生じる腫瘍と同様に手術を主体とし、残存腫瘍に対しては放射線治療が行われますが、成長ホルモン[22]産生腺腫に対しては、ホルモン類似薬による治療も有効です。手術で腫瘍を切除するとホルモンの産生が障害されますので、治療後、不可欠なホルモンについては、その欠乏の程度により補充治療を行います。なお、プロラクチン[21]産生腺腫に対しては、最近では手術しないで内服薬で治療することが可能になってきました。
脳から出る神経は、それぞれ頭蓋骨を通り抜けて、目や耳、舌など頭部の各部分につながっていますが、これらの神経を取り巻いて支えている鞘さやのような組織(神経鞘)から生じる腫瘍を神経鞘腫といいます。聴神経に生じることが最も多く、次いで三叉神経などに生じます。
脳腫瘍の治療には、手術(外科治療)、放射線治療、抗がん剤治療(化学療法)があります。
腫瘍の大きさや場所、症状や患者さんの状態、予想される腫瘍の種類や悪性度などを考慮して治療法が選択されます。
手術によって病変をすべて摘出できれば、それが最も有効な治療法です。しかし、脳には体を正常に保つための多くの機能が備わっていますから、それらの機能を維持するために、場所によっては腫瘍をすべて摘出せず、一部を残すこともあります。
たとえ腫瘍の一部を残すことになっても、手術によって病変を小さくすることは、放射線治療や抗がん剤治療の効果を高める上で価値があります。なお、他の腫瘍では、良性の場合は経過観察になりますが、脳腫瘍の場合は、良性と推測される場合であっても脳を圧迫して障害を引き起こすため、手術で摘出することが勧められます。
また、手術や生検(腫瘍の一部を採取すること)で得られた腫瘍組織は、病理診断によって腫瘍の性質や悪性度を診断し、放射線治療や抗がん剤治療の方針を決定します。
高エネルギーのX線やそのほかの放射線を照射して、腫瘍を破壊する方法です。脳腫瘍の治療において、放射線治療は重要な治療法の1つであり、単独あるいは手術や抗がん剤治療と組み合わせて行われます。
治療の際には、放射線をできるだけ腫瘍部分だけに照射し、正常組織には照射しない、もしくは照射量が少なくなるようにします。
放射線治療後すぐに現れる副作用としては、放射線が照射された部位に起こる皮膚炎・中耳炎・外耳炎などや、照射部位とは関係なく起こるだるさ、吐き気・嘔おうと吐、食欲低下などがあります。また、脳そのものの機能に影響が及ぶこともあります。中には、放射線治療が終了して数ヵ月~数年たってから起こる症状(晩期合併症)もあります。患者さんによって副作用の程度は異なります。
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