概要
胆管がんは胆管の上皮(胆管内側の表面をおおう粘膜)から発生する悪性腫瘍です。その発生した胆管の部位により、肝外胆管がんの肝門部領域胆管がんと遠位胆管がん、そして肝内胆管がんに分けられます。
肝内胆管がんは胆管細胞がんと呼ばれることもあります。また、肝内胆管がん(胆管細胞がん)は肝臓にできたがんとして、肝細胞がんと一緒に原発性肝がんとして取り扱われています。
胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がんを合わせて胆道がんと呼びます。
胆管がんの発育
1)浸潤性発育
肝外胆管がんで最もよくみられます。胆管上皮から発生したがんは、インクが紙に染み込むように周辺へ広がります。
2)胆管内発育
主に胆管の内側の空間にだけ向かって、きのこのような形に盛り上がるように大きくなります。
3)腫瘤形成性発育
腫瘍をつくって大きくなります。
肝外胆管がんは、1)と2)の発育形式をとります。肝内胆管がんは主に3)の発育形式をとりますが、2)や、まれに1)の発育を示すものもみられます。
症状
黄疸
がんができることによって胆管内が狭められ、胆汁が流れにくくなります。狭められた胆管より上流(肝臓側)の胆管は圧力がかかり拡張し、胆汁が胆管から逆流して血管の中に入るようになると、血液中のビリルビン濃度が高くなり、皮膚や目の白い部分が黄色くなります。これを閉塞性黄疸といいます。
- 白色便
胆汁が腸内に流れてこなくなると便の色が白っぽいクリーム色になります。黄疸は程度が軽いとなかなか気が付きません。便の色が白っぽく変化したことで、はじめて症状に気が付くこともあります。 - 黄疸尿
血液中のビリルビン濃度が高くなると、尿中に排泄されることにより、尿の色が茶色っぽく、濃くなります。尿検査でビリルビンを確認することで黄疸の有無がわかります。
- かゆみ
黄疸が出ると皮膚のかゆみも同時にあらわれることが多く、これは胆汁中の胆汁酸という物質がビリルビンと一緒に血管内へ流れるためです。
原因
胆管がんの原因も、胆のうがんと同じく胆石が大きく関わってきます。胆石はコレステロールに起因するものが多く、コレステロールは肝臓で作られるものと、食べ物から摂取するものがあります。
- 胆石、胆嚢炎、胆管炎、原発性硬化性胆管炎、膵・胆管合流異常症、肥満、高カロリー摂取
検査
黄疸や右上腹部痛があらわれ、胆管がんを疑う場合、まず血液検査と腹部超音波検査を行います。
胆管の拡張などの胆道閉塞がみられた場合、CT検査やMRI検査などを行い、がんの存在や広がりを調べます。
直接胆道造影や胆道鏡は、胆管に直接造影剤を注入してX線撮影する検査です。
直接胆道造影では細胞診検査、胆道鏡では組織診検査ができます。
内視鏡を使う超音波検査として、超音波内視鏡検査(EUS)やIDUS(管腔内超音波検査)があります。
全身的な検査としてPET検査があります。
血液検査
胆道閉塞が発生すると血液中のビリルビンが増加したり、胆道系酵素のALPやγ-GTPの数値が上昇したりします。また胆管がんに特異的な腫瘍マーカーはありませんが、診断の補助的な役割をするマーカーとしてCA19-9やCEAがあります。
腹部超音波(エコー)検査
体外から超音波の出るプローブをおなかに当てるだけで、針を刺したり、大がかりな機械に入ったりすることもなく、外来で比較的簡単に検査ができます。
肝臓の内部、周辺の腫瘤、胆管の拡張などを調べるのに適しており、処置が必要な閉塞があるかどうかの判断にとても有用です。
CT検査
体の周囲からX線を当てて、体の断面図を撮影する検査です。
腫瘍の存在部位や広がりを捉えることができます。胆管の拡張程度や部位も調べることができます。
また造影剤を用いることで、腫瘍部と非腫瘍部組織の血流の差を利用して腫瘍を浮かび上がらせることもでき、腫瘍がどの程度、周囲の血管に浸潤しているのか推測できます。
最近では、1回のスキャンで多数の画像を撮ることができるマルチスライスCT(MDCT)が普及しています。他方向からの観察が可能になり進展度診断に有効です。3次元化した画像により血管浸潤の評価が詳細に可能になります。
MRI検査
巨大な磁石の中に入って体のさまざまな部分を撮影する検査です。
CTと同様に胆管の拡張や病変の存在部位・広がりを診断できますが、CTと得られる情報が異なり、治療前の精密検査として行われることがあります。
造影剤や内視鏡を使わずに検査することができるため、痛みもありません。
直接胆道造影
胆管内へ細いチューブを挿入して造影剤を送り、X線撮影する検査です。胆管がんの広がりを直接観察することができます。取り出した胆汁中のがん細胞を調べること(細胞診検査)も可能ですが、診断には限界があります。また、同時に黄疸の治療として、下流に流れなくなった胆汁を体の外に導出する処置も行うのが普通です。
胆道鏡
直接胆管の中に細いファイバースコープを通し、造影剤を直接注入してX線撮影する検査です。胆管の粘膜内進展範囲の診断に有用で、粘膜から小さな組織片を採取し、腫瘍の広がりをより詳しく調べる方法(組織診検査)もあります。
超音波内視鏡検査(EUS)、管腔内超音波検査(IDUS)
超音波内視鏡検査(EUS)は、内視鏡の先端に超音波検査装置が付いています。
がんの近くから観察することができ、肝門部領域胆管がんの血管浸潤や遠位胆管がんの壁内進展度診断に有用です。
管腔内超音波検査(IDUS)は、十二指腸乳頭部から胆管に超音波プローブを挿入し、胆管内部を観察することができます。IDUSの超音波プローブは細く、EUSでは入ることができない細い胆管にも挿入することが可能です。
胆管がんの深達度診断、血管浸潤の垂直方向浸潤の診断、および壁内進展の診断に優れています。
PET検査
PET検査は、放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、その取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を検出する検査です。
最近ではCTを併用したPET-CT検査が普及しています。リンパ節転移や遠隔転移の診断に優れています。
病期 ステージ
肝門部領域胆管がんの病期
- 0期
上皮内がん - I期
がんが胆管の中だけにとどまっている - II期
胆管壁を越えるが他の臓器への浸潤はない。またはさらに肝実質*1の浸潤がある - IIIA期
がんのある胆管のそばの門脈または肝動脈に浸潤がある - IIIB期
領域リンパ節に転移があるが、遠隔転移はなく、がんが浸潤している範囲は、IIIA期までと同様 - IVA期
領域リンパ節転移の有無に関わらず、遠隔転移がなく、両側肝内胆管の二次分枝まで浸潤している、または門脈の本幹や左右分枝に浸潤がある、または総肝動脈、固有肝動脈、左右肝動脈に浸潤がある、または片側肝内胆管二次分枝まで浸潤があり、対側の門脈や肝動脈に浸潤がある - IVB期 がんの浸潤および領域リンパ節転移の有無に関わらず、遠隔転移がある
日本肝胆膵外科学会編「臨床・病理 胆道癌取扱い規約2013年11月(第6版)」(金原出版)より作成
遠位胆管がんの病期
- 0期
上皮内がん - IA期
がんが胆管の中だけにとどまっている - IB期
胆管壁を越えるが他の臓器への浸潤はない - IIA期
胆のう、肝臓、膵臓、十二指腸、他の周辺臓器に浸潤がある。または門脈本幹、上腸間膜静脈、下大静脈などの血管に浸潤がある - IIB期
領域リンパ節に転移があるが、遠隔転移はなく、がんが浸潤している範囲は、IIA期までと同様 - III期
領域リンパ節転移の有無に関わらず、遠隔転移がなく、総肝動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈に浸潤がある - IV期
がんの浸潤および領域リンパ節転移の有無に関わらず、遠隔転移がある日本肝胆膵外科学会編「臨床・病理 胆道癌取扱い規約2013年11月(第6版)」(金原出版)より作成
肝内胆管がん(胆管細胞がん)の病期
- I期
腫瘍の数は1カ所で、大きさは2cm以下で血管や漿膜(しょうまく)※に浸潤はない - II期
腫瘍の数が1カ所で、大きさが2cm以下または血管や漿膜に浸潤がない
もしくは腫瘍の数は2カ所以上あり、大きさが2cm以下であり、血管や漿膜に浸潤がない - III期
腫瘍の数が1カ所で、大きさが2cmを超えて、血管や漿膜に浸潤がある
もしくは腫瘍の数が2カ所以上あり、大きさは2cm以下で血管や漿膜*2に浸潤がある
もしくは腫瘍の数が2カ所以上あり、大きさが2cmを超えるが血管や漿膜に浸潤はない - IVA期
腫瘍の数が2カ所以上あり、大きさは2cmを超えて、血管や漿膜に浸潤がある - IVB期
腫瘍の数と大きさに関わらず、リンパ節転移がある。もしくは遠隔転移がある
合併症
胆汁漏
胆管を切除した後に、胆管の断端を小腸に吻合して再建するため、吻合部より胆汁が腹腔内に漏れ出ることがあります。ごく少量であれば、自然に軽快することもありますが、通常は漏れ出た胆汁を対外へ排出するためのドレナージチューブの留置が必要となります。
この胆汁漏という合併症には、生命を脅かすほどの危険性はありません。しかし、術後一定の期間、ドレナージ用のチューブの留置が必要となります。
胆管の吻合部などに狭窄・閉塞(狭くなりつまること)ができて、胆汁の流出が停滞するためおこった胆汁漏に関しては、黄疸(皮膚や眼球結膜が黄染すること)を来すこともあり、胆管の狭窄・閉塞を解除してあげる必要があります。
内視鏡を用いて、十二指腸乳頭(ファーター乳頭、胆管と膵管の開口部)より逆行性に胆管の閉塞・狭窄部をこえてチューブを胆管内に留置して、胆汁をドレナージします。
この十二指腸より留置したチューブは、症状が軽快したら、再び内視鏡を用いて確認しながら抜去します。
胆管炎
胆管を切除した後に、胆管の断端を小腸に吻合して再建するため、吻合部を経由して、小腸内の食物残渣や腸液などが、逆行性に胆管へ流入することがあります。このため、胆管内が細菌汚染されることにより誘発されます。
通常、突然の高熱で発症するため、食事をひかえたり中止すること、また抗生剤の治療により症状は軽快します。手術後の炎症などにより、胆管の吻合部などに狭窄・閉塞ができて、胆汁の流出が停滞するためおこった胆管炎に関しては、胆管の狭窄・閉塞を解除してあげる必要があります。
狭窄・閉塞部位よりも胆管の上流側に、停滞した感染胆汁を排出するためのドレナージチューブを留置します。ドレナージにより胆管の狭窄・閉塞部の炎症も軽減して、胆管の狭窄・閉塞が解除されて、胆管炎は軽快します。また逆に、内視鏡を用いて、上記と同様に治療することもあります。
薬
- ゲムシタビン点滴静注用(一般名:ゲムシタビン塩酸塩)
- シスプラチン注(一般名:シスプラチン)
治療法
手術(外科治療)
胆管がんは手術が唯一治癒の期待ができる治療です。胆管がんでは定型術式といったものはなく、がんの広がりに応じた、安全でできるだけ根治的な術式が選択されます。
胆管がんの手術は、手術規模がかなり大きくなること、肝臓や膵臓などの生命に極めて重要な臓器に直接処置が加わることで、術後合併症や手術死亡は他のがんの手術より高リスクであるのが現状です。また、手術後の再発率も決して低くありません。
肝門部領域胆管がん
肝門部から胆管、門脈、肝動脈が分岐していく複雑な構造の影響で、肝門部領域にできたがんの手術には高い技術が必要となります。
根治的手術のため、まわりの肝臓、胆のう、リンパ節はほぼ切除され、膵臓も合併切除することがあります。
合併手術によって組織や臓器が切り離された場合、胆管や十二指腸を通っていた道をつくるため、縫い合わせる再建手術が行われます。広範囲に肝臓を切除する場合には術前門脈塞栓(そくせん)術を行い、残す肝臓を大きくして肝不全を防ぎます。
遠位胆管がん
遠位胆管にできたがんは、胆管が膵臓を通っているため、膵臓へ広がりやすい性質をもっています。そのため十二指腸と十二指腸に接している側の膵臓(膵頭)を切除する、膵頭十二指腸切除が基本術式になります。
切除後は再建手術で、残った膵臓を小腸や胃に縫い合わせ、膵液が小腸や胃に流れるようにします。同様に、胆管と小腸、胃と小腸をつなぎ合わせます。
肝内胆管がん(胆管細胞がん)
がんが肝臓の端にある場合には、肝部分切除を行います。
肝臓の左葉(肝臓の左側およそ1/3)と右葉(肝臓の右側およそ2/3)を越えてがんが広がっている場合や、肝門に近い場合には、大きく切除する必要があり、胆のう切除やまわりのリンパ節郭清も行うことがあります。
広範囲に肝臓を切除する場合には術前門脈塞栓術を行い、残す肝臓を大きくして肝不全を防ぎます。
手術に伴う合併症
胆道や膵臓の手術では、切除部分から胆汁が漏れて腹膜炎を起こしたり、膵液が漏れて出血や感染を起こしやすくなったりする場合があります。そのため、手術の後しばらくの間、体内にたまった胆汁や膵液、血液などを体外に出すための管(ドレーン)が数本、おなかに留置されます。鼻から胆道や膵臓に管を通すこともあります。
管が付いている間は、抜けないように、また位置が動かないように管の入り口で固定されます。管から出た液体をためておく容器を身に付けておくことで、体を動かしたり、歩いたりすることができるようになります。
体をまったく動かさないでいると背中が痛くなることがあります。そのようなときはマッサージをしてもらうなど、可能な範囲で体の位置を静かに変えるなどして対処します。
また、膵頭十二指腸切除術という手術を行った場合、再建手術で縫い合わせた部分が狭くなると、食べ物の通りが悪くなって吐き気がしたり、細菌が腸から胆管や膵臓に移って感染を起こしたり、だるさや腹部の不快感、腹痛、吐き気、高熱などの症状があらわれることもあります。
症状が改善されないときは、内視鏡を使って狭くなったところを広げる処置をするなど、再度手術を行う場合があります。
胆汁や膵液、食べ物の流れが問題なければ、少しずつ管を外して食事を再開します。
化学療法(抗がん剤治療)
胆管がんに対する化学療法として、ゲムシタビン+シスプラチン併用療法が標準治療として確立しています。切除が不可能な胆管がんの患者さんに広く行われている治療です。
多くは外来で、週1回3時間程度かけて点滴し、2週連続投与し、3週目は休薬します。このように3週間を1コースとして治療を繰り返します。
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ぺージ名 : | 胆管がん |
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