概要
生来、健康で耳の病気を経験したことのない人が、明らかな原因もなく、あるとき突然に通常一側の耳が聞こえなくなる病気をいいます。
急激に発症する感音難聴のうち、原因不明のものを突発性難聴と呼んでいます。
症状
突然に耳が聞こえなくなる(高度の難聴)と同時に、耳鳴りや耳がつまった感じ、めまいや吐き気を生じることもあります。めまいは約半数の患者さんに認められますが、めまいはよくなった後に繰り返さないのが特徴です。また、突発性難聴では耳以外の神経症状(四肢の麻痺や意識障害など)が認められないのが特徴です。発症が突発的であることから、ほとんどの患者さんが発症の時期やそのときの状況を覚えていることが多く、「何時からかははっきりしないが、徐々に聞こえなくなった」ような難聴は突発性難聴ではありません。
原因
突発性難聴の原因はわかっていません。現在推定されている原因には、有力な2つの説があります。
- ウィルス感染説
これは難聴の発症前に感冒(風邪)のような症状を訴える患者さんが少なくないことや、 突発性難聴の罹患が一回かぎりであること(再発はほとんどない)、おたふくかぜやはしかなどのウィルス疾患が突発的な高度難聴を起こすことなどが根拠となっています。 - 内耳循環障害説
内耳血管の痙攣や塞栓、血栓、出血などによる循環障害は突発性難聴の突然の発症をうまく説明できます。また治療として血管拡張剤、抗凝固剤などの循環を改善する薬剤がしばしば有効であると報告されていることも根拠となっています。しかし、この説では突発性難聴の再発はほとんど無いという特徴の説明は困難です。
検査
問診と純音聴力検査をします。
突然の難聴を症状とする他疾患の鑑別の為に諸検査も行われます。 聴神経腫瘍を鑑別するためのレントゲン撮影やMRI、内耳性感音性難聴であることを確認するためのABLBテスト、SISIテスト、自記オージオメトリー、内耳梅毒でないことを確認するための血液検査など。
診断
厚生労働省研究班 突発性難聴の診断基準
薬
治療は安静にして、副腎皮質ステロイド剤を投与するのが基本です。循環改善薬、ビタミン製剤、利尿剤、ATP製剤(アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)などを併用する。
- トリノシン腸溶錠(一般名:アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)
- アデホスコーワ腸溶錠(一般名:アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)
治療法
突発性難聴の急性期の治療として最も重要なものは安静です。突発性難聴の発症前に精神的、肉体的疲労感(ストレス)を感じていること が多く、心身ともに安静にして、ストレスを解消することは重要です。難聴の程度によっては入院治療が望ましい場合もあります。安静のみでも内耳循環障害の改善が期待されます。
内耳循環障害改善を目的とする治療
血管拡張を目的とした薬剤としては血管拡張薬が用いられます。また、血栓により内耳循環障害が生じていると考えられる場合には抗凝固薬が用いられます。代謝改善薬や向神経ビタミン製剤が併用されることもあります。
薬剤以外では二酸化炭素による血管拡張を期待して95%酸素・5%二酸化炭素混合ガス吸入が行われています。さらには血液内酸素濃度を上昇させるために高気圧酸素療法も試みられています。また、星状神経節ブロックが行われることもあります。
ウイルス性内耳障害改善を目的とする治療
ウイルス感染に対しては副腎皮質ステロイドが広く用いられています。副腎皮質ステロイドの持つ強カな抗炎症作用がウイルス性内耳炎を軽快すると考えられますが、免疫的な作用機序や循環障害で生じる活性酸素を抑制するなどの循環系に対する機序も関与しています。
副腎皮質ステロイドの投与は一般に内服や点滴で行われますが、 糖尿病や胃潰瘍、結核などの合併症がある場合には副腎皮質ステロイドの副作用によって、それぞれの疾患が増悪する可能性があります。
近年、鼓膜を介して中耳(鼓室)に副腎皮質ステロイドを注入すると、比較的高率に内耳に吸収されることが明らかになったことから、これらの疾患の既往がある方や、内服や点滴で 改善が見られなかった場合に、副腎皮質ステロイドの鼓室内投与が用いられるようになっています。
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